前号に引き続き、児童虐待について。
家庭に長くいる夏休みのような時期は、児童虐待を受けている子どもにとっての地獄である。
感染症防止のためにステイホームが呼びかけられ始めた昨年、大きく話題に上がったのが記憶に新しい。
今も、地獄のような毎日に怯えて暮らしている子どもが、日本中だけでなく世界中に確実にいる。
これらの子どもを救うには、関心をもつことがそのスタートである。
この「虐待」という場合、何かあった時に体罰や暴言を吐いたというレベルで留まらない。
「虐め(いじめ)」+「待(=継続的、習慣的にあしらう)」である。
継続的、日常的に虐げられている状態を指す。
虐待の起きやすさは、閉鎖性がポイントである。
オープンな空間では起き得ない。
オープンな空間だと「待った」が外から入るからである。
必ず、閉鎖的な空間で起きる。
学校でも、閉鎖性が強いと虐待は起き得る。
閉め切った教室内で、一人の大人だけがずっと子どもを見ている場合である。
つまり、小学校の学級担任制は、幼稚園のオープン保育や中学校以降の教科担任制に比べ、実は虐待リスクを孕みやすい仕組みである。
(これは部活動においても同じである。)
この小学校で当たり前になっている学級担任制度については他にも何かと問題点が多く、具体的な対応をして変えていくべきだと私は考えている。
教科担任制の推進は大変有効だが、予算を考えると現実的でない。
私としてはいずれ、学年全員で交代して全学級をみる「学年担任制」の方を推進したい。
職員室が閉鎖的だと、職員内での虐待も起き得る。
閉鎖的な空間という点では、想像の域を越えないが庁舎などでもそうなのかもしれない。
会社内やその部署内などでもそうなのかもしれない。
つまり、どこでも虐待は起き得るということである。
そして、最も閉鎖的で密な空間は、家庭である。
虐待は、家庭内についてが圧倒的に最も起きやすい。
家庭内には、外から一切が入れないからである。
今回取り上げたいのは、その中の夫婦間のDVである。
次の最新資料が参考になる。
「女性に対する暴力の現状と課題 」令和3年8月 内閣府男女共同局
PDFスライドのP.5に次の分析がある。
・暴力のいずれの行為も、女性の方が被害経験者の割合が高い
・女性の約4人に1人は被害経験があり、約10人に1人は何度も受けている
さらに、次の分析も重要である。
・特に女性は、「経済的不安」や「養育しながら生活していく自信がなかったから」の割合が高い
経済的にも依存していると、精神的にも依存が起きやすいようである。
それにより、相手に全てを支配され、奴隷のようにされるという恐ろしい構造である。
次のことも記されている。
・子供のいる被害女性の約3割が、子供への被害経験も認識
妻が虐待を受けていると、子どもも被害を受けている可能性が高いということである。
より弱い子どもにも牙が向くのは、それが心の弱い人間だということを考えれば、さもありなんというところである。
全体の1割の中の3割なので、0.1×0.3=0.03 つまり、全体の3%の子どもが少なくとも被害を受けているといえる。
35人学級で1人という割合である。
つまり、クラスに虐待を受けている子どもが一人もいないと考える方が不自然ということになる。
この内閣府の資料は、本当に大切なことが端的に示されている優れた資料である。
最新のものであるので、一度リンクをクリックして各データスライドのタイトルだけでも目を通しておくことを強くおすすめしたい。
(再掲)
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/pdf/kadai.pdf
なぜ夫婦間DVを先に取り上げたかというと、結局それが子どもへの虐待のきっかけになりやすいからである。
根本であるここを解決することで、子どもへの虐待を未然に防げる可能性が高まる。
さらに先の「10人に1人は何度も被害を受けている」というデータを改めて考えてみる。
これはつまり、誰しも自分の担任している子どもたちの内の1割の家庭に、夫婦間DVの可能性があるということである。
35人学級だったら、クラスの3~4人の子どもの母親は、虐待されている可能性があると見る。
あくまで平均データ上の確率論だが、どこでもそのように疑って見るのが公平であり妥当なリスクマネジメントの考え方である。
単に「あるけれど見えていない」だけと考えることである。
さらにそれを考えると、その親たちのストレスのはけ口を誰が受けているのかということである。
つまり、もし担任であるあなたがそれを受けているのだとしたら、自分のこと以外にも色々と考えるべきことがある。
児童虐待を考える上で、先に夫婦間DVの問題に関心をもつべきという提案は、そのためである。
夫婦間DVの問題は、児童虐待問題における大きな要因の一つである。
しかしながら、それが要因の全てではない。
他にも児童の発達特性への無理解やLGBTQ等の個性への無理解、貧困問題など、とにかく多様で複雑で根深い。
長期休み明けに担任がすべき仕事の一つは、この児童虐待へのリスクマネジメントの視点をもって冷静に見てみることである。
長期休み明けは子どもの様子の変化を観察することが何よりも重要であり鉄則である。
(だから本来、宿題チェックなどというどうでもいいことをしている場合ではない。
夏休みの宿題が手枷足枷になっているようでは本末転倒である。)
子どものため、本当に為すべき仕事に集中したい。
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