2020年10月26日月曜日

子どもの裁判所

9月22日は「孤児院の日」で,そこにちなんで書いた記事。

岡山の医師である石井十次という偉人が、1887年に日本初の孤児院を創設した日だという。

まだ憲法も制定されていない明治の時代に、そのようなものをつくった人がいたということに、ただただ敬意である。


偶然、私も海外の孤児院創設者の本を読んでいたところだった。

最近、子どもの権利や教育に関することを記事にしていたのも、その影響である。


「子どもの権利条約」に大きな影響を与えた、ヤヌシュ・コルチャックの伝記である。

(参考:日本ユニセフ協会 T.NET通信


一年前にも、このコルチャックの作った孤児院を舞台にした本をメルマガ・ブログ上で紹介している。

(参考:「教師の寺子屋」自治的学級づくりと信頼関係


教育における子どもの自治の原型を作った人といえる。

孤児院という、ほとんどが子どもだけの空間の中で、子どもの子どもによる子どものための生活と学びの場を作っている。


コルチャックは孤児院を「ホーム」と呼ぶ。

「ホーム」の子どもたちが共同生活をしていく中で、次の3つを作ろうとしていた。


それが

「子ども議会」

「子どもの法典」

「子どもの裁判所」

である。


「子ども議会」では、クラス会議のような自治的教育が、生活に密着した形で既になされている。

「子どもの法典」は「子どもの裁判所」と連動して、かなり細かく決められている。

中でも特に深いのが「子どもの裁判所」である。


裁判というといかめしいが、その強調されるところは

「人間はまちがいを犯す」

「まちがいを赦す」

という二点である。


つまりは、まちがいを自覚させ、それを赦すための裁判といえる。

それを、子どもの中から選出された裁判官が中心となって行うというものである。


裁判の一例が書かれている。

例えば、三人の少年が、小鳥の卵の入った巣を興味本位で分解した。

これを見た子どもが「ひどい」と咎めて、訴えられた。

それぞれの言い分も聞いた上で、裁判の判決は、有罪。

ただし少年の中の一人は、実際に壊していない上に十分に反省が見られるということで、無罪。


有罪の少年には罰として「今晩、みんなと一緒の部屋で夕飯を食べらない」というものである。

つまり、反省は促すものの、最終的には罪を赦すという方向である。


この裁判には「正直な人、一生懸命に努力している人を守るべき」という考えがベースにある。

他人を傷つける、怠けて真面目な者に不利益を生じさせるようなことがあってはならないという考えである。


ちなみにこの裁判、先生も子どもと全く平等に法定に立つ。

子どもを訴えることもできるし、逆に被告人として立たされることもしばしばである。

このコルチャック氏自身も何度も裁判にかけられ、「裁判官から叱られる」という割と重い罰を受けたこともあり、子どもに謝っている。


このような仕組みがあれば、保護者が介入するような、妙なもめ事にならないのではないかと思う。

きちんと子どもと先生が向き合える仕組みである。

先生の方からも不服申し立てができるというのもいい。


100年以上前に、このような進歩的教育思想・システムが機能していたということは、特筆すべきことである。


このような真の自由を愛する教育を施していたにも関わらず、最終的にはナチスによるホロコーストの犠牲となる。

国家間戦争は、全ての理不尽がまかり通る最悪の暴力である。


話を自治、子どもの権利に戻すと、権利には義務がセットということである。

子どもの個人の権利を最大に尊重するためには、集団内の各子ども個人の権利を侵害してはならない。

「何をしてもいい」というのではなく、権利を得る集団の一員としての責務を果たし、他人の権利を侵害しないという前提がある。

これは、ここに携わる大人も同様である。


この「ホーム」における子どもの権利の大原則を、学級集団に落とし込んで考えてみる。

学級の自治に必要なのは何か。

きまりである。

それも、子どもによる子どものためのきまりである。

また、きまりを単なる理想論にせず、それを機能させるだけの仕組みも必要である。


現代において、子ども同士の「裁判」は難しいかもしれない。

しかしながら、子ども同士のけんかを大人が解決する、というのではなく、子ども同士の話合いで解決するというのは、理想形である。

仲間や先生への不満を子どもが公的に訴え、反省を促し赦す場が学級内にあるというのは、理想的である。


そのためには、集団内のきまりが作用すること。

適切なきまりが自治をつくる。

この重要性を改めて感じた次第である。

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