3月末、学校でマスクを外すことを奨励しはじめた頃にメルマガ上で書いた記事。
今とは、感覚的に多少ズレがあるかもしれないが、それを比較するにもいいのでそのまま転載してみる。
最近、行く先々で「不親切教師の」という枕詞付きで紹介される。
認知度を上げてもらい、有難いことである。
「自分もそれ(不親切)を心がけてきた」という方にも多く出会う。
教育の本質を真剣に考えた場合、手のかけすぎの弊害は大きいため、必然的にそうなる。
さて、そうやって子どもの主体性を求めていくと、壁にぶつかる。
「やるべきことをやらない」あるいは「自分から動きださない」という類の壁である。
見守っていればやがて動く、という考え方もある。
しかしこれは、あまねく全員に、あるいは全てのことに当てはまることではない。
なぜならば、その価値について、肚落ちしていないからである。
価値を感じてない以上、いつまで経っても主体的に取り組むことはない。
しかし「価値がないと感じることはやらない」という姿勢は、成長の妨げになる。
その価値を見出すというのは、体験を通して初めてわかるからである。
ごみ拾いやトイレ掃除一つとってもそうである。
道端や公園等に落ちているごみなんて拾わなくても自分には何も問題ないと思える。
公共の場のトイレなんて汚した人が掃除すればいいのであって、自分には関係ないと思える。
全くその通りである。
自分の家の敷地ならまだしも、公共の場のごみをそのままにしておいても、自分に何ら影響はない。
ましてどこかのトイレが汚いのだったら、担当の清掃員さんの仕事であると考えるのが(特に欧米諸国では)自然である。
しかし、意味がないと思っても拾ってみる。
汚いから嫌だと思っても、トイレの掃除を思い切ってやってみる。
実際に「意味がないと思っていること」をやってみると、自分の中に何かしらの「気付き」が生まれることがある。
その「思い切って」は、きっかけがないと難しい。
ここが「善意の強制 価値ある強制」の教育の出番である。
(何度も紹介しているが、『師道』(さくら社)にある、野口芳宏先生の言葉である。)
できればやりたくないと思っているだろうことを、やらせる。
あるいは、やるものだと思う状況に追い込む。
この価値と効果は大きい。
(効果が大きいが故に、誤った方向に導く可能性があることも、常に頭に入れておく。)
「やりたいことをやればいい」
ということと
「やった方がいいことはやるべき」
という二つを両立させる必要がある。
「中庸」ではなく、両方とるのである。
最近「マスクを外すかどうか」がよく話題に上がる。
今までは「マスクを付けること」の方を強制していた。
これは教育的な「善意の強制」ではなく、国としての安全確保のための強制、命令、ルール化である。
これには当然のことながら、反発心を抱く人も少なくなかった。
今、選択できる状況になった。
文科省からもマスクの着用を求めないことを基本とする方針が出ている。
「どちらでもいい」という選択肢である。
本当にそれで良いのだろうか。
マスクは本来、健康上の理由で付けるものである。
ウィルスの脅威が以前のようなものではなくなった今、学校生活で日常的に付ける必然性はかなり低いといえる。
人間の顔に表情があるのは、コミュニケーションのためである。
マスクがあると、そこがかなり阻害される。
そもそも、表情以前に個別の顔自体がわからないのである。
選択肢があると「周りの人が外さないから」という理由で外さない。
顔を隠す目的の正当化である。
特に思春期においては自分の外見が周りにどう見られているかが必要以上に気になり出すので、尚更である。
ここは思い切って外すということを「強制」して求めないと、なかなか外せない。
これは良くも悪くも日本人的なところで、全員そうするとなれば、そうする。
「自分は本当は外してもいいのだけれど周りが・・・」と思っている子どもたちが、ここでやっと外せる。
確かに、いきなりそれをやるのは横暴である。
散々「マスクを付けろ」と命じてきたのはどこの誰なのかという話にもなる。
ある程度段階的に求めていく必要はある。
ここで言いたいことは「善意の強制 価値ある強制」が存在するという点である。
子どもの主体性を信じる、自主性に任せるということ自体は時代に合っているし、価値がある。
しかしながら、教師が子どもに一切求めることを止めた時、それは教育ではなくなる。
『不親切教師のススメ』でも述べているが、子どもを自立へと促す行為が本当の親切教育である。
放っておいて自立するなら苦労はない。
自立に役立つこと、価値あることならば「強制」してでも求めていく覚悟が必要である。
子どもの成長にとって何が価値あることなのか。
時代の流行を掴みつつ、その底流に流れる本質の不易も忘れない不断の努力が必要である。
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