今号は「のんびり」がテーマ。
のんびり、長文である。
思い出話から。
私の初任校は、千葉県の丸山町立丸小学校というところであった。
この学校は数年前、学校の統廃合により廃校になった。
山の中にある、実に牧歌的でのどかな学校だった。
私の赴任した当時、全校児童数は98名。
私はその内の11名、5年生を担任した。
田舎らしく、自由でやんちゃで元気いっぱい、明るい子が多かった。
休み時間は、全学年の児童が男女問わず一緒にサッカーや鬼ごっこをやることもあるという、オープンな関係だった。
学校の裏側は山で、そこに「石堂寺」という由緒正しいお寺がある。
お寺の敷地内には、野鳥観察ができる小屋も設置されている。
辺りは田園地帯で、近くには川も流れていた。
学校と地域との関係も良好で、夏祭りなどの様々なイベントがあった。
近くの高齢者施設の祭りに駆り出され、そこで焼きそばを作ったこともあった。
当時「勤務時間」どうこうなどという杓子定規なことは全く考えなかった。
(そもそも、毎日授業準備のために一人で夜遅くまで残っていた。
若く、時間とエネルギーが溢れるほどあったのである。)
幼稚園も併設されていて、プールは幼稚園の敷地内にあった。
空き時間に幼稚園へ行くこともあった。
時々行くと、園児たちが身体をよじ登ってきた。
幼稚園のクリスマス会には、園長兼校長が、サンタ役で行くこともあった。
バリバリ東北弁のサンタさんだった。
園児からの
「サンタさんはどこからきたの?」
の問いかけにリアルに答えようとしたため、幼稚園の先生たちに
「はーい、サンタさんはこれから次のご用事があるので帰りまーす!」
と強制退出させられていた。
実直で明るくオープン、とても人柄のよい校長先生だった。
(サンタさんは、同じく寒いフィンランド地方から来るのである。惜しい。)
保護者との関係も、とても近かった。
保護者との飲み会は町に数件ある飲み屋で開催され、それも親切なご家庭による自宅への送迎付きである。
家庭訪問をすれば家に上がらせていただき、お土産をもたされることもしばしばである。
ある日、生きた鮑(あわび)を土産にもらった先生がいて、それを「持っていきな」と私にくれた。
車のダッシュボードの上でうにょうにょと動くので、どうしようかと思った。
(これは友人宅へ持っていって酒の肴にした。)
こう書くと全てが楽しかったように思うが、今と違い、実は毎朝仕事に行くのがかなり辛かった。
その理由は、授業が下手すぎたからである。
もう、自分でもダメだとわかりきっている授業を、我慢している子どもたちに日々受けさせるのは、本当にしんどかった。
私が教育技術の獲得にのめり込んだ一番の理由である。
だからこそ、夜中の10時まで学校にいるような日があったのである。
さて、こんな思い出話を書いた理由だが、今、どこも学校現場が、やたらと忙しすぎるからである。
昔から、先生たちは結構忙しかったのである。
教材研究にも熱心で、家庭や地域との繋がりによる活動も多かったし、土日の活動も正直多かった。
しかし、今のように「やらねばならないこと」「やってはいけないこと」が大量にあった訳ではない。
あらゆるルールも緩く、裁量権が与えられていた。
今は、見ての通りで「生き馬の目を抜く」というような怒涛のサバイバル状態である。
管理社会という呼び名が相応しい状態である。
大人も子どもも、やるべきことが多すぎるのである。
そして、正直、本質的には要らないことだらけである。(チェック系、管理系の仕事が特に増えた。)
担任なのに子どもと遊ぶ時間すら確保できないとなれば、異常事態である。
他にも授業のための教材研究や、地域社会や家庭とのつながりなど、もっと価値のあることがたくさんある。
一つのことに、腰を据えてじっくり取り組む。
こういう時間が、どんどん減ってきているのではないかと感じる。
時間的余裕がない。
それは、単純に量的にやるべきことが多すぎるからである。
物事に常に追われている状況である。
そんな中のある年、休み時間に、低学年の子どもたちに誘われてテラスに出た。
テラスに出て何をするのかと思ったら、日陰に座らされ、ただぼーっとしていた。
ぼーっとグラウンドを眺めていると、風が感じられ、心地よかった。
その子も、グラウンドを眺めながら、私にぽつりと言った。
「先生も、ぼーっとした方がいいよ。」
当時、日々「どうすればもっと良くなるか、効率よくできるか」と考え、文字通り「奮闘」していた時だった。
ああ、最近、ぼーっとしている時間、とれてなかったなぁと、しみじみ感じた出来事だった。
それ以来、できるだけ時々ぼーっとする時間をとるようにした。
子どもたちも、忙しいと気持ちがぎすぎすしてくる。
やらねば落ちこぼれると、必死になる。
どんどん、競争意識が強くなる。
「ぼーっとする」の、真逆の方向である。
大切なことに力を注ぐ。
後は、工夫してのんびりする。
(注:工夫してがんばる、ではない。)
教員志望の数を増やしたいからこそ、我々が生き生きと楽しく働く姿を目指していきたい。
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