2022年10月8日土曜日

工夫してのんびりしよう

今号は「のんびり」がテーマ。

のんびり、長文である。

思い出話から。


私の初任校は、千葉県の丸山町立丸小学校というところであった。

この学校は数年前、学校の統廃合により廃校になった。


山の中にある、実に牧歌的でのどかな学校だった。

私の赴任した当時、全校児童数は98名。

私はその内の11名、5年生を担任した。

田舎らしく、自由でやんちゃで元気いっぱい、明るい子が多かった。

休み時間は、全学年の児童が男女問わず一緒にサッカーや鬼ごっこをやることもあるという、オープンな関係だった。


学校の裏側は山で、そこに「石堂寺」という由緒正しいお寺がある。

お寺の敷地内には、野鳥観察ができる小屋も設置されている。

辺りは田園地帯で、近くには川も流れていた。


学校と地域との関係も良好で、夏祭りなどの様々なイベントがあった。

近くの高齢者施設の祭りに駆り出され、そこで焼きそばを作ったこともあった。

当時「勤務時間」どうこうなどという杓子定規なことは全く考えなかった。

(そもそも、毎日授業準備のために一人で夜遅くまで残っていた。

若く、時間とエネルギーが溢れるほどあったのである。)


幼稚園も併設されていて、プールは幼稚園の敷地内にあった。

空き時間に幼稚園へ行くこともあった。

時々行くと、園児たちが身体をよじ登ってきた。


幼稚園のクリスマス会には、園長兼校長が、サンタ役で行くこともあった。

バリバリ東北弁のサンタさんだった。

園児からの

「サンタさんはどこからきたの?」

の問いかけにリアルに答えようとしたため、幼稚園の先生たちに

「はーい、サンタさんはこれから次のご用事があるので帰りまーす!」

と強制退出させられていた。

実直で明るくオープン、とても人柄のよい校長先生だった。

(サンタさんは、同じく寒いフィンランド地方から来るのである。惜しい。)


保護者との関係も、とても近かった。

保護者との飲み会は町に数件ある飲み屋で開催され、それも親切なご家庭による自宅への送迎付きである。

家庭訪問をすれば家に上がらせていただき、お土産をもたされることもしばしばである。


ある日、生きた鮑(あわび)を土産にもらった先生がいて、それを「持っていきな」と私にくれた。

車のダッシュボードの上でうにょうにょと動くので、どうしようかと思った。

(これは友人宅へ持っていって酒の肴にした。)


こう書くと全てが楽しかったように思うが、今と違い、実は毎朝仕事に行くのがかなり辛かった。

その理由は、授業が下手すぎたからである。

もう、自分でもダメだとわかりきっている授業を、我慢している子どもたちに日々受けさせるのは、本当にしんどかった。

私が教育技術の獲得にのめり込んだ一番の理由である。

だからこそ、夜中の10時まで学校にいるような日があったのである。


さて、こんな思い出話を書いた理由だが、今、どこも学校現場が、やたらと忙しすぎるからである。

昔から、先生たちは結構忙しかったのである。

教材研究にも熱心で、家庭や地域との繋がりによる活動も多かったし、土日の活動も正直多かった。


しかし、今のように「やらねばならないこと」「やってはいけないこと」が大量にあった訳ではない。

あらゆるルールも緩く、裁量権が与えられていた。


今は、見ての通りで「生き馬の目を抜く」というような怒涛のサバイバル状態である。

管理社会という呼び名が相応しい状態である。


大人も子どもも、やるべきことが多すぎるのである。

そして、正直、本質的には要らないことだらけである。(チェック系、管理系の仕事が特に増えた。)

担任なのに子どもと遊ぶ時間すら確保できないとなれば、異常事態である。

他にも授業のための教材研究や、地域社会や家庭とのつながりなど、もっと価値のあることがたくさんある。


一つのことに、腰を据えてじっくり取り組む。

こういう時間が、どんどん減ってきているのではないかと感じる。

時間的余裕がない。

それは、単純に量的にやるべきことが多すぎるからである。

物事に常に追われている状況である。


そんな中のある年、休み時間に、低学年の子どもたちに誘われてテラスに出た。

テラスに出て何をするのかと思ったら、日陰に座らされ、ただぼーっとしていた。

ぼーっとグラウンドを眺めていると、風が感じられ、心地よかった。

その子も、グラウンドを眺めながら、私にぽつりと言った。

「先生も、ぼーっとした方がいいよ。」


当時、日々「どうすればもっと良くなるか、効率よくできるか」と考え、文字通り「奮闘」していた時だった。

ああ、最近、ぼーっとしている時間、とれてなかったなぁと、しみじみ感じた出来事だった。

それ以来、できるだけ時々ぼーっとする時間をとるようにした。


子どもたちも、忙しいと気持ちがぎすぎすしてくる。

やらねば落ちこぼれると、必死になる。

どんどん、競争意識が強くなる。

「ぼーっとする」の、真逆の方向である。


大切なことに力を注ぐ。

後は、工夫してのんびりする。

(注:工夫してがんばる、ではない。)


教員志望の数を増やしたいからこそ、我々が生き生きと楽しく働く姿を目指していきたい。

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