2021年2月25日木曜日

信用と信頼の違いを意識する

 教育の成立条件は「信・敬・慕」。

師の野口芳宏先生の言葉であり、この言葉だけは、どの年の教育実習生にも常に伝えている。

(引用文献:野口芳宏(2010).利他の教育実践哲学 ─魂の教師塾─ 小学館 pp.73-78.

https://www.shogakukan.co.jp/books/09837391 )

この本はここ十数年の私にとっての座右の書であり、自分の教育実践の中核となっている。


さて、この中の「信」について取り上げる。

ここで述べるのは、師の野口先生のものではなく、あくまで私自身の教育実践からの考察である。


「信」は、信用と信頼である。

ここでさらりと並べて書いたが、「信用」と「信頼」を明確に区別して考えることが大切である。


似た言葉の相違を考える際には、それを用いた熟語を考えたり、どのような場面で使われたりするかを考えるとよい。

片方でしか使えないという場面をいくつか比較すれば、意味の違いが明確になる。


「信用」を考える。

信用取引、信用金庫、信用組合など。

お金や契約が絡むものが多い。

英訳はクレジットカードの「credit」であり、この言葉には「単位」という意味もある。

きちんと規定の課題をこなせばcreditが出るし、そうでなければ出ない。


「信頼」を考える。

信頼関係、信頼感、自己信頼。

感情が絡むものが多い。

英訳は「trust」で、この語源は真実や真理の「truth」と同じである。


これだけでも、明確に違いがわかる。

信用とは、言うなれば契約関係である。

一方で信頼とは、無条件に真に相手を信じきることである。


信用というのは、常に条件付きである。

いつも何かをしているから、あるいは何かができるから、信用できる。

あるいは、過去に何かをしたから、あるいはできなかったから、信用できない。

約束したら、相手にその遂行能力があるだろうという期待が信用である。

信用は「裏切らない」「契約を履行する」というのが前提である。


シビアであるが、社会での関係は基本的にこれである。

例えば、Amazonや楽天などで気軽に買い物をする。

これは、頼んだ商品が確実に届くという「信用」があるからこそである。

(しょっちゅう届かないとかいうことがあれば、確実に使わなくなる。)


基本的に信用で商売は成り立つため、会社などは「信用第一」とよく言われる。

また、信用は契約・取引関係のため、裏切ると致命傷になる。

そのため、特に不祥事への対応などはここの分水嶺になる。

つまり信用とは、主体と客体の両者の行為によって成り立つものである。


ただ、信用を積み上げていくと、やがてそれが信頼に変わることがある。

馴染のお客様とお店との関係などは、信頼関係である。

例えば今は飲食店等は経営がきついが、何があっても応援して足を運んでくれるお客様は、信用ではなく、信頼に基づく行為である。


私の好きな松下幸之助氏の幼少期のエピソードに、松下氏が初めて自転車を売った話がある。

小僧時代に泣きながら奔走して初めて契約をとったお得意先から「気に入った。永久にお前から買ってやる」と言われたそうである。

これなどは、理屈もなにもなく、信用ではない無条件の信頼関係である。


どちらが社会的に獲得し難いかも明確で、圧倒的に、信頼である。

信頼の場合は無条件なので、見返りを一切期待していない。

相手がどう出ようが、それを信じているのである。

つまり信頼とは、完全に主体的な行為である。


一方で、信頼はある特定の関係において、無条件に与えられるものでもある。

例えば、親子関係である。

子どもを信頼している親がいる。

それは、我が子が優秀だからとか、何かの賞をとったからとかではない。

ただ信頼しているのである。


周りに何を言われようと、いじめられようと(あるいはいじめる側に回ってしまおうとも)、失敗しようとも

「あなたを信じているよ。味方だよ。」

というのが、親子の信頼関係である。

あまり考えたくはないが、例え成人した我が子が罪に問われて投獄されても、信じて待っているのが親である。


この場合の信頼の「信じている」こととは

「あなたは、今は辛いだろうけど、きっと大丈夫。必ずよくなる。」

という無条件の肯定である。


拙著『切り返しの技術』でも紹介している「信じているよ。」は、この信頼に基づく切り返しワードである。

(松尾英明(2016).ピンチがチャンスになる「切り返し」の技術 明治図書 PP.38-39.

https://www.meijitosho.co.jp/detail/4-18-190712-9 )


説明だけで長くなりすぎた。

教育実践云々については、次号に続く。

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