2020年10月31日土曜日

少人数学級は実現できるか

 学級担任の時間的労力の大きさは、どこで決まるか。

これは、学級の人数である。

当り前だが、10人程度しかいない学級と40人いる学級では、日々の時間的労力が全く違う。

個々の対応の大変さももちろん違うのだが、それ以前に、単純な作業量が違う。


私自身も両方経験していて、この点については保証する。

11人の学級担任だった時は、テストの採点も日記の返事もあっという間である。

評価の目も行き届きやすく、通知表もあっという間に出来上がる。

当然、各種書類関係の処理時間も少ない。

提出物があってもあっという間に集まるし、集計できる。


これが40人の担任であれば、全てに先の4倍かそれ以上の時間がかかる。

今までのペースでやろうとしていたら、当然、残業という力技でカバーすることになる。

結果、多くの学校では慢性的残業が習慣となっていく。


算数の問題だと、次のようになる。

「A先生はテスト1枚あたり1分で採点ができます。

10人を担任した時は何分かかるでしょう。

40人を担任した時は何分かかるでしょう。

40人の時にかかる時間は、10人の時の何倍でしょう。」


小学生レベルの算数で考えても、当たり前のことである。


さて、現状の40人学級を、30人学級の実現へということで政府が動いている。

これ自体は、望ましいことである。

先の話でいうと、40人から30人では、25%減であるから、時間的労力が全く違う。

一教師の視点から見ると、これに越したことはない。


しかし、何事も、部分最適ではなく、全体最適として見ることが肝要である。

この教師個人にとって望ましい傾向が、全体としても望ましい結果になるか、ということである。



以下、突然30人学級が実現するという、架空の想定をしてみる。


A先生は、40人学級を担任している。

A先生にとって、30人になること自体は助かる。

そしてA先生がもつはずだった10人は、別の人が担任することになる。


同じことが全ての先生にいえる。

そうなると、一人の先生ごとに10人もてなくなる子どもが出る。

その分、他の人がもつことになる。


校内に余剰人員はいないので、新しく大量に採る必要が出る。

単純計算して、現状の担任3人あたりに1人の増員である。

全体の4分の1は、増員した人が担任することになる。

増員されるのは、新規採用の人たちである。


そうなると、育成に時間と費用がかかる。

育成期間中は、やりながら鍛える、という方向をとることになる。

これも当然である。


支援級を除いて各学年5学級、現状で30人の担任がいる児童数1200人の大規模校だと、10人増員することになる。

さて、この10人全員が30人の学級を担当できる力があれば何も問題はない。

実際は、急募されたほぼ未経験の10人であるので、それを望むのは難しい。


つまり10学級は、常にケアが必要な状態である。

各学年7学級中2学級にケアが必要な状態。

集団を扱う技術が未熟なのだから、荒れる学級も当然出る。


これは、担当人数25%減の恩恵ではカバーしきれない。

火消しや治療に費やす労力は、予防の労力より何倍も大変である。

元々が各々労働時間がオーバーしていたのだから、無理が生じる訳である。

結局、全体最適という観点からしてもマイナスだし、個々にもしわ寄せがいくのは間違いない。


以上は、非現実的な架空の想定である。

現実は、一気に採用を増やすということはできない。


だから「段階的に採用」という方向になる。

政府の出した方向だと、実現に10年間かけるという。

現時点の採用試験でも2倍を切っている自治体が多いという現状。

そこで余剰人員が全くいないために講師に頼っているという現状からすると、10年でもかなりの急ピッチである。


「教育は人なり」という言葉が示すように、成否の鍵は人次第である。

教育におけるICTの活用は、あくまで人の補助である。

工場やシステム管理のように、ロボット中心になることはない。

だから、未来になってもなくならない職業なのである。


30人学級の実現は、担任の現状からすると、夢のような話である。

今回は理想、ビジョンを明確に掲げている以上、時間をかけて必ず実現はする。


素晴らしい試みであるものの、現場から見た問題点も数多くあるので、今後の動向が気になるところである。

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