2021年4月28日水曜日

「ダム経営」と学級開き

 「ダム経営」という言葉がある。

以前にも紹介した、次の本からである。


『実践経営哲学』 松下幸之助著 PHP文庫

https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-57562-9


松下氏は、会社も部署も、家族も、そして個人すらも、すべて「経営」であるという。

私も大いにこの考えに賛成である。

だから「学級経営」「学年経営」という言葉も成立すると考えている。


さて、この経営のやり方の一つの中で「ダム経営」というのを紹介している。

簡単にいうと、ゆとりをもって経営をするのが大切ということである。


設備であれば、常時は操業率80%ぐらいで採算がとれるようにしておく。

そうであるからこそ、急な需要が出た時などの非常事態に、100%にしてきちんと対応できるということである。


初期の制度設計の上で、ゆとりがないと、確実につぶれる。

「非常事態がない」ということが、逆に考えられないからである。

想定外の非常事態が起きるということを、想定内にしておくことである。


いざとなったら、放流もできるし、せき止めて溜めておくこともできる。

そう考えれば、心の余裕ができる。

こういった「心のダム」を随所にもつことが肝要であるという。


一方、採算を見誤って余剰在庫が出てしまっているのは、単なる「ムダ」であるという。

授業の準備のしすぎなど、これにあたるだろう。

やりすぎて、想定して決めた路線以外で授業展開ができないような状態である。


学級経営では、ムダでなくダムが必要である。

常に全力100%経営は、ダムがない状態で、どこかムダのある状態である。

平常時の操業率は、80%以下程度にとどめておく方が望ましい。


選手たちは、試合中なら100%全集中で全力疾走の状態が望ましい。

しかし経営者側となれば話は別で、余裕が欲しい。

そうでないと、非常事態やトラブルに対応ができないからである。

困った事態、難しい事態に適切な判断を下すことこそが、経営者側の最も重要な仕事だからである。


学級経営上での突発的トラブルの主たるものは、生徒指導関係である。

あるいは、子どものけがや病気である。

常にここへの適切な対応ができるように準備しておくことが望ましい。


そもそも学級担任が余裕をもてる体制・仕組みになっているかどうかという問題もある。


例えば学校によっては、月に1度、朝に担任が子どもからの手集金をしている場合がある。

この時担任は、15分程度の休み時間のタイムリミット内に一円たりとも間違えずに確実に計算し、事務方へ計上しなくてはいけない。

(こういう時に「おつり」のある状態で出されると、非常に煩雑で手間がかかる。学校は商店ではない。)


当然、この間子どもを見ている職員はほぼおらず、そうなると、必然的にトラブルが発生しやすい。

そしてここでトラブルが起きたら、色々大混乱である。


こういう学校に限って「担任がだらしない、しっかりしろ」と言われたりする。

余裕のない状態を学校が自ら作っていることに誰も気づかないので、当然である。

色々な面で、どんどん悪くなる。

人事異動などは、こういう古くからの悪い風潮に疑問をもち風穴を開けてくれる可能性があるので、その点で大変意味がある。


ダム的発想として、担任の休み時間は必須である。

担任が遊ぶ余裕がない状態に制度設計してしまうと、生徒指導などの様々なことが疎かになる。

子どもと遊べないような忙しい状態(常時100%操業率)で、健全な経営ができるはずがない。

(というよりも、子どもと遊ぶのは仕事の一部といえるので、遊んでいるのも含めて80%操業率が望ましい。)


拙著『「捨てる!」仕事術』などでも

https://www.meijitosho.co.jp/sp/eduzine/interview/?id=20170607

「残業しないで帰る人がいるのはいいこと」

と述べているが、これである。


常時全員残業状態では、行事やトラブルなど臨時のものに対応できない。

余裕の職員がいるからこそ、そういう時にもスムーズな対応ができるというものである。

「働きアリの法則」で、全力でない状態のメンバーもいた方が、集団全体の存続にとって望ましいのである。


とはいえ、担任の立場で、学校の制度をいじることはなかなかできない。

まして、人員増などは完全に範疇の外である。


そうであるならば、工夫して普段からの自分の学級経営に余裕をもてるようにするしかない。

「いつも全力100%」は、選手が心がけるべきことであって、集団を経営する者がすべきことではない。

危険やトラブルを予見して予防に力を注ぐことと、いざという時の非常事態に100%を出して解決するのが役割である。


その上であっても、担任が経営として全力を尽くした方がいいところとは、「学級開き」である。

ここには全力を尽くす。

ここは、今後のあらゆる面の「予防」にあたる部分だからである。

その後はトラブルも必ず起きるので、少しずつペースを落として余裕を作っていく。


学級開きについては、各種書籍にも出ているし、私も過去にたくさん書いたり喋ったりしているので、ここでは省略する。

ダム経営を目指すためにも、この学級開き時には全力を尽くすとよいと考える。

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