2021年5月4日火曜日

学級を「シェア」する

 2022年度より、小学校の教科担任制の本格導入が決定した。


参考:東洋経済新聞 2021.4.13 小学校「教科担任制」4つの目的と気になる効果


学級担任の疲労を引き起こす原因は、単純な業務量だけではない。(しかしながら、これは多すぎる。)

大きな原因の一つは、孤独感である。

これは多くの研究論文でも明らかになっている。

要するに、学級の責任を一人で抱え込みすぎる。

そして、学級担任制とは、そういう風に感じるような制度設計である。


問題の根本・本質は、学級担任が、学級を「自分のもの」にしてしまうことである。

「学級王国」と呼ばれる状態こそが根本的原因である。


件の教科担任制を導入しても、実はこれは変わらない。

複数の教科担任の先生から「〇〇先生のクラスでは授業が成立しない」という相談を受ける事態が多く起きるだけである。

つまりは、学級担任の責任ということになる。(実は純粋にそれだけではないのだが、本人はそう感じる。)


ここは勘違いされやすいのだが、算数の授業が成立しないのは、実は単純に算数の授業が下手だからではない。

もし授業の論理だけならば、専科の授業で特定の学級のみが成立しないという訳がない。

それらは、実は学級経営上の指導の反映である、集団の在り方こそが大きな要因である。

極論、「何からも学べる」体制の子ども集団になっているのであれば、どの授業を誰がやっても成立する。


つまり現在は、学級経営を個人の力量に任せること自体に問題が生じている。

学級担任をしているのが経験が浅い、あるいは全くない若手の割合が多くなっているのだから、当然である。

大変だとわかっている学級を初任者や異動したての新任者にもたせているのは、それぐらいの人材不足という証である。


そうなると、今必要なことは、自分の学級を互いに「シェア」し合うことである。

教科担任に自学級を助けてもらうというよりも、自分も他学級に入り支える経験が必要である。

例えば、学年内で毎日一定時間交替して他学級に入って指導、あるいは観察できるような仕組みである。


そうすると、何が起きるか。

まず、自分の守備範囲が広がる。

野球に例えると、自分はセンターだけどライトとレフト、あるいはセカンドとショートのこぼれにもカバーに入るよという意識である。

(野球を知っている人にしか伝わらないかもしれない。)


余計に大変になるじゃないかと思うかもしれないが、逆である。

まず、他の場のことが知れる。

周囲の出来事が、自分事になる。

人間が苦悩するのは、自分のことばかり考えているからであって、関心を外へ向けるようになると悩みは溶解する。


さらに、他の人が自分の学級のことを知ってくれる。

同じ立場の人同士が、大変さも共有することで、分かり合える。

これは、自分のポジションのところにも周りがカバーに入ってくれるということである。


そして何より、子どもが嬉しい。

色んな先生が「担任」してくれるのである。

違いも楽しいし、自分と合う先生に会えるのも嬉しい。


「担任の先生と合わない」という事態は、普通である。

全国の各教室において、発生率100%に近いのではないかと思う。

「学級の全員が担任の先生と合う」という事態は、ある意味異常ともいえる。

そんな状況の中で一年中担任と子どもとがずっと一緒に過ごしたら、それこそ子どもによっては地獄である。

(これは、学級担任の側にもいえる。合わなくても誠実に相手をするのが責務であるからこそ、余計に地獄である。)


まとめると、要は新たに人を入れることよりも、今いる人員内で交替することが先である。

これには、追加の予算が全くいらないし,既に実施して成功している事例も複数ある。


学年あるいは学校内で、自分も複数の学級に入るし、学年の仲間も自分の学級に入る仕組みを導入する。

これは、担当教科自体を交替してもいいし、朝の会や給食などの特定の時間だけの担任を交替するのでもいい。

とにかく、自学級以外に入る機会を作り、「自分の担当学級」の範囲を広げ、「学年の子ども」として複数の目で見ることである。


ちなみに、朝の会に担任が交替して入るだけでも効果がある。

この手法を過去に実際に全校導入(一部学年除く)してもらい、2か月程度実験した。

実施した全ての学級において、9割を超えて「よい」という子どもからの評価である。

特に、学年の他の先生と話すことができるようになった、相談できるようになったという点で高い結果を示した。


ごく簡単にできることなので、真似できそうなら是非実施して欲しい。

実施開始時期のおすすめは、学級が担任と慣れて落ち着いた後の7月以降である。


学級担任が一人で抱え込まない仕組み作り。

そのためには、「シェア」がキーワードである。

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